ドイツ

【世界遺産】Pfahlbauten(ウンターウーリンゲン水上住居)を歩く|木と水に囲まれた先史時代の暮らし

【孤独の建築 Vol.5|Pfahlbauten(ウンターウーリンゲンの水上住居跡)】

ボーデン湖の風は、9月の終わりでもまだあたたかい。
空はどこまでも晴れていて、湖の水は陽を受けてきらきらと揺れていた。

この日訪れたのはPfahlbauten。
ウンターウーリンゲンの先史時代の水上住居跡。
ユネスコ世界遺産にも登録されている、ドイツでは数少ない“住まいのかたち”の遺構だ。

会社の後輩と2人で来たのだけど、
展示を見ているうちに、自然と会話が減っていた。
たぶん、それぞれが違うスピードでこの場所と向き合っていたんだと思う。

湖に突き出すようにして並んだ木造の住居群。
復元された建物は素朴で、静かに風を受けていた。
派手さはない。でも、この景色の中ではそれがいい。

構造を見ていると、時代ごとの違いが目に入ってくる。
柱の太さ、貫の位置、屋根の勾配。
何千年も前の人々が、少しずつ手を加えてきた形跡。
進化というより、暮らしの痕跡の蓄積だった。

建築を見ていると、ときどき時間が崩れる。
この建物が「今」建っていることと、
「昔」建てられたかたちが、目の前で重なってしまうような感覚。

展示室には、腐朽した木材や当時の暮らしの模型が並んでいた。
水に沈んでいた木片。その断面に、確かに年輪があった。
それを見て、少し言葉を失った。

ここに家があった。
家族がいて、火があって、風が吹いていた。
水の上の暮らし。それは不便だったかもしれないけど、
この景色に囲まれて生きること自体が、何か特別だったんじゃないかと思った。

復元された住居を見て回っていると、
これは“本物”なのか“再現”なのかという問いが浮かんでくる。
でも、それはどこかでどうでもよくなる。

大切なのは、その場所に立って、風に触れて、
自分の足元が「水上」だったことを実感すること。
その実感こそが、この建築群の持つ力なのかもしれない。

柱は水中に沈み、いまも湖の底に立っている。
鉄もコンクリートも使われていない。
木だけで、こんな暮らしが成り立っていたことに、
ただ、静かに驚かされた。

腐った木材が差し替えられた跡があった。
改修の痕跡がそのまま残っている住居もあった。
完璧じゃない。むしろそれがいい。

時間に触れた気がした。

この建築群は、文化財であると同時に、
かつて確かにあった「生活」を、いまに引き戻す装置でもある。
それは資料としての正確さ以上に、空気や重みを伝える力に満ちていた。

振り返ると、後輩が黙って湖のほうを見ていた。
俺も何も言わず、となりに立った。

しばらくして、また展示の続きを見に歩き出す。
言葉がなくてもいい時間が、そこにはあった。

ここに来る前は、「ちょっと見ておくか」くらいの気持ちだった。
でも今は、この体験がずっとあとまで残る気がしている。

建築は、いつも「いま」を見せてくれると思っていた。
でも今日の建築は、「かつて」をそっと語ってくれた。

そしてそれは、思った以上に、心を揺らした。

🔍 Pfahlbauten Unteruhldingen(ウンターウーリンゲンの水上住居博物館)

  • 所在地:Strandpromenade 6, 88690 Uhldingen-Mühlhofen, Germany
  • 正式名称:Pfahlbaumuseum Unteruhldingen
  • ユネスコ世界遺産:アルプス周辺の先史時代の湖上住居群の一部(2011年登録)
  • 対象時代:新石器時代~青銅器時代(紀元前4000年頃~前850年)

🚉 アクセス方法

  • 最寄駅:Uhldingen-Mühlhofen駅(ドイツ鉄道)
  • 駅から徒歩約30分、またはバス(1番または7395系統)でPfahlbauten停留所
  • メーアスブルクやフリードリヒスハーフェンからフェリーやバスでもアクセス可能

⏰ 開館時間・入場料(2024年時点)

  • 3月中旬~11月上旬のみ開館
  • 営業時間:10:00〜18:00(季節により変動あり)
  • 入場料:大人 €12(ガイドツアー込み)

💡 見学ポイント

  • 湖上に再現された住居群を実際に歩いて体験できる
  • 木材の風化・補修の様子が見られるほか、時代ごとの構法の違いに注目
  • 展示館では、水中から発掘された木製構造物や生活道具も紹介