日本

【京都の隠れ建築】将軍塚青龍殿|静けさと大胆さが共存する舞台空間

【孤独の建築 Vol.32|将軍塚青龍殿(京都)】

京都の東山、標高220メートルの山の上。
市街地からは少し離れたその場所に、
将軍塚と呼ばれる静かな建築がある。

観光地としての知名度はあまり高くない。
だけど、訪れてみるとすぐにわかる。
ここは“知っている人だけが来る場所”なんだ、と。

青龍殿という名の建物は、
木造と鉄骨を組み合わせたような独特の構造で、
京都盆地を見渡す大舞台を支えている。
この張り出し方、ただのウッドデッキじゃない。
構造体そのものが“景色を切り取る装置”として機能している。

曇りがちだった空が、少しずつ明るくなってくる。
すると、眼下に広がる京都の街がふわりと輪郭を帯びはじめる。
静けさと、構えの良さ。
どこにも派手さはないが、
そこには確かな建築の力があった。

張り出した舞台の端に立って、しばらく動けずにいた。
京都市街が一望できる。南は伏見、北は大文字山の方角まで。
眼下に広がる街を、こんなに静かな場所から眺める経験はなかなかない。

風の音と、自分の呼吸だけが聞こえる。
人気(ひとけ)はまばらで、
まるでこの空間が「静寂を引き受けるために造られた」ような気さえした。

建築としての青龍殿は、一見すると非常にシンプルだ。
でも、その“張り出し”は大胆だ。
擁壁や地形に頼らず、構造体が前へ前へと伸びている。
まるで「この景色を、もっと近くで見ろ」と言われているようだった。

そして気づいた。
この舞台は、「見る」ための装置であると同時に、
都市との距離を物理的にも心理的にも測る装置になっている。
都市の喧騒から離れ、時間の流れを少し緩やかにする場所。
それが、将軍塚という建築だった。

帰り道、山を下りながらふと振り返る。
木々の隙間から、さっきまで立っていた舞台の屋根がちらりと見えた。
あれだけの構造が、こんなに静かに風景に溶け込んでいるとは。

「隠れた名作」なんて言葉では足りない。
この建築は、自分だけの静かな時間と、
都市を見つめ直すための“間”をくれる場所だった。

🔍 将軍塚青龍殿(Shogunzuka Seiryuden)

  • 所在地:京都府京都市山科区
  • 特徴:東山山頂に建つ寺院と舞台建築。京都の街を一望できる高台に位置する
  • 建築の構成:青龍殿の本堂と、前面に張り出した広大な木造舞台(約1,000㎡)
  • 設計の意図:もともとは武道館を移築した建物であり、構造体の大胆な張り出しが特徴的
  • 補足:舞台からの景色は夜間ライトアップ時も人気(季節・時間により変動)

🚶‍♂️ アクセス

  • 【バス利用】京都駅または三条京阪より「将軍塚青龍殿前」下車(期間限定運行の場合あり)
  • 【タクシー利用】市街中心部から約15〜20分
  • 【徒歩】蹴上駅から登山道経由で約45〜60分(やや登りがきつい)
  • ※歩いて訪れる場合は、靴と体力の準備をしっかりと

💡 訪問時のポイント

  • 観光地としては穴場のため、静かに建築と風景を楽しめる
  • 曇り空でも景色に奥行きが出るため、晴れ間がのぞけば一層美しい
  • 木製の舞台構造を建築的に観察する価値あり(張り出しの構造、支持部、素材など)