イギリス

【建築×再生】Tate Modernを訪ねて|建築そのものを“展示”する空間

【孤独の建築 Vol.20|Tate Modern(テート・モダン)】

ロンドンのテムズ川沿い。
曇り空の下、薄暗い川の景色の先に、赤茶けた巨大な建物が姿を現す。
それが、テート・モダンだった。

美術館、というよりも、まず「塊」としての存在感があった。
縦長の塔、分厚い壁、少し不穏な沈黙。
その正体は、もともと火力発電所だった建物のリノベーション

中に入ると、巨大な吹き抜け空間が迎えてくる。
タービンホールと呼ばれるその場所は、
展示空間というより、ただの「余白」として存在しているようだった。

天井は高く、音は吸い込まれ、
光は上からごくわずかに差し込むだけ。
ここがかつて、電力をつくっていた空間だとは思えないほど、
今は静かで、動きがない。

でも、その静けさの中に、建物が持っていた過去の“力”の名残が確かにあった。

空間は複雑に入り組んでいた。
吹き抜けを囲むように配置された回廊、斜めに走るエスカレーター、
階段を上るたびに現れる展示室は、どれも方向感覚を少しだけ狂わせてくる。

展示物を見るというよりも、
建物の中を「探る」「進む」体験のほうが印象に残った。

途中から、自分がどこにいるのかがわからなくなる。
でもそれが、不思議と心地よかった。

迷路のような構成。
なのに、重たくない。
むしろ、ずっと歩いていたくなる空間だった。

展示はあくまでその“空間に置かれているもの”であって、
主役はやっぱりこの建物そのものだった。
どこか抽象的で、けれど物理的な圧力を持った空間。

元が発電所だったからこそ、
スケール感や素材の選び方に圧倒的なリアルさがあった。
それを崩さずに、でも“美術館”として再生させているのがすごい。

正直、行く前はあまり期待していなかった。
「有名な再利用建築のひとつ」という程度の認識だった。
でも、実際に中に入って、歩いて、迷って、見上げて――
気づけばこの建物そのものを「作品」として見ていた。

テート・モダン。
それはただのミュージアムじゃなかった。
かつてのエネルギーが、静けさに変わって今も残る場所だった。

🔍 テート・モダン(Tate Modern)

  • 所在地:Bankside, London SE1 9TG, United Kingdom
  • 設計(リノベ):Herzog & de Meuron(スイス)
  • 元の建物:Bankside Power Station(火力発電所)
  • 開館:2000年(Switch House 増築は2016年)

🚉 アクセス方法

  • 最寄駅:地下鉄 Southwark 駅または Blackfriars 駅(徒歩約10分)
  • テムズ川沿いに位置し、ミレニアム・ブリッジを渡るとセント・ポール大聖堂と対峙するロケーション

⏰ 開館時間・入場料(2025年時点)

  • 毎日10:00〜18:00(祝日も開館)
  • 入場無料(特別展は有料)

💡 見学のポイント

  • タービンホール(吹き抜け)での展示・空間体験は必見
  • 建築は、産業建築の素材とスケールを活かしつつ、動線と展示を大胆に再構成
  • 外観の重厚さに反して、内部は軽やかで明るい空間の連なり
  • Switch House(増築棟)からの展望も人気(階段またはエレベーターで)