【孤独の建築 Vol.16|Bachritterburg Kanzach(カンツァッハの物見櫓)】

車の中から何度かその姿を見ていた。
小さな集落の中に、ひときわ素朴で、どこか異質な塔が立っている。
Kanzach。
ドイツ南西部、Biberachの郊外にあるこの小さな村に、
中世を再現した「Bachritterburg(バッハリッター城)」がある。
その中でも目を引いたのが、物見櫓だった。

まるで、構造模型をそのままスケールアップしたような建物。
隠すことなく、力の流れがそのまま形になっている。
梁が、柱が、斜材が。
どこに荷重がかかり、どう受けて、どこへ流れていくのかが一目でわかる。

むき出しの木材。
継手の痕跡。
釘や金物ではなく、木と木が支え合う構法。
建築というより、時間の中に残された「痕跡」そのもののようだった。
塔の中に入ると、意外なほど整っていた。
粗野な外観とは裏腹に、内部は静かで、空気が澄んでいた。
足元の木は軋み、壁は少し乾いた匂いを帯びていた。
誰がこれを、どうやって建てたのか。
想像が頭を巡る。
今あるものは復元であっても、その構法や素材の選び方に、かつての知恵と手の感触が宿っている。





見上げれば、桁と梁の交差が幾何学的なリズムを刻んでいた。
それは装飾ではなく、ただ「立ち上がるための仕組み」としての美しさだった。
物見櫓という名前のとおり、上からは周囲の集落がよく見えた。
でも、ここに立っていたのは「守るための視線」だったのかもしれない。
建築が、日常の中で戦っていた時代。
その痕跡を今、観光地として再構築されたかたちで歩くことになるとは思っていなかった。
外から何度も眺めていた建物。
中に入ってみてはじめて、その建築が「語る力」を持っていたことに気づいた。
Bachritterburg Kanzach。
それは構法の博物館ではなく、静かに歴史と構造を語る“手の記憶”の展示場だった。

🔍 Bachritterburg Kanzach(バッハリッター城)アクセス・見学情報
- 所在地:Bachritterburg, Bachstraße 28, 88422 Kanzach, Germany
- 設立:2001年(中世の木造建築技術を用いた復元施設)
- 特徴:13世紀の中世の村と櫓塔を、実際の材料と工法で再現した野外ミュージアム
🚉 公共交通でのアクセス
- 最寄駅:Bad BuchauまたはRiedlingen駅からバスまたは車で約15分
- ウルムから車で約1時間。周囲は田園地帯
⏰ 開館時間・入場料(2025年時点)
- 開館:4月〜10月の週末、またはイベント開催日にオープン(要公式確認)
- 入場料:€5程度(子ども・学生割引あり)
💡 見学のポイント
- 木組みと継手によって再現された中世の構法が学べる実物大の施設
- 外観は粗野だが、内部は非常に丁寧に仕上げられており、素材と構法へのこだわりが感じられる
- 建築好きには、荷重の流れがそのまま見える構造美が特におすすめ