イギリス

【Zaha Hadid】ロンドン五輪の水泳会場で建築の内側に包まれる

【孤独の建築 Vol.16|London Aquatics Centre(ロンドン・アクアティクス・センター)】

ロンドン五輪の会場として建てられた水泳施設。
建築を学んだ者にとっては、それがザハ・ハディドの設計だと知った時点で、もう「ただのプール」ではなくなっていた。

London Aquatics Centre。
ロンドン東部の広大なオリンピックパークの中で、
滑るように地面に寄り添いながら、まるで巨大な海洋生物のように鎮座していた。

外観だけで、ザハとわかる。
うねるような屋根、力強くも繊細なライン、青みを帯びたガラスと金属。
流線形という言葉の見本のような建築だった。

正面からではなく、横から見たときの印象が特に強い。
建築というより「動きの途中を凍らせた彫刻」に見えた。

中に入り、水着に着替え、プールに足を入れる。
思えば、建築の中で泳ぐという行為はなかなか特別だ。

でも、泳いでいるときは不思議と空間を意識しない。
ただ、水の音と呼吸に集中していると、
ふと上を見上げたときに気づいた。

俺はいま、鯨の腹の下にいるような空間の中にいる。

泳ぎながら、時々視界の端に屋根の曲線が入る。
それはまるで、水に合わせて空間が呼吸しているようだった。
柔らかく、どこまでも滑らかな屋根。
そこには、ザハの建築が持つ「抑揚のある静けさ」があった。

ザハ・ハディドの建築というと、外観ばかりが注目されがちだ。
でもこの施設は、身体で使って初めてわかる感覚があった。
線が導く動き。
壁や天井が、こちらのスピードやリズムを裏側から支えてくる。

泳ぎ終わってプールサイドに上がると、
そこに広がる空間のスケールに、あらためて驚かされる。
巨大なはずなのに、威圧感はなく、ただ静かに包まれている感じ。

建築は“見るもの”ではなく、
“入って、使って、感じるもの”だということを、久々に思い出した。

外に出ると、曇り空が広がっていた。
ザハの曲線は、その空に溶け込むように輪郭を失いかけていた。
それでも、空間の内側にいた感覚は、しっかりと身体に残っていた。

London Aquatics Centre。
それは、建築に抱きかかえられるような、
とても静かでやわらかな体験だった。

🔍 London Aquatics Centre(ロンドン・アクアティクス・センター)

  • 所在地:Queen Elizabeth Olympic Park, Stratford, London E20 2ZQ, United Kingdom
  • 設計者:Zaha Hadid Architects
  • 竣工年:2011年(ロンドンオリンピック用に建設)
  • 特徴:流線型の屋根を持つ公営水泳施設。現在は一般利用可能。

🚉 公共交通でのアクセス

  • 最寄駅:Stratford Station(地下鉄・鉄道)から徒歩約5〜10分
  • Olympic Park内に位置し、他のスポーツ施設やモールとも隣接

🏊‍♂️ 利用案内(2025年時点)

  • 利用可能時間:朝〜夜まで(予約推奨)
  • 一般利用可能(オンライン予約・現地受付対応)
  • 利用料金:£5〜£10程度(時間・設備による)

💡 建築の見どころ

  • 鯨のようなフォルムを持つ流線型屋根と、内側から感じる柔らかなスケール感
  • ザハ・ハディドの“空間に導かれる”設計思想を、水泳という行為の中で体感できる
  • プール利用者として「空間を使う」という建築体験が可