イギリス

【再生された建築】Design Museumの屋根と螺旋がつくる立体のデザイン体験

【孤独の建築 Vol.22|Design Museum(ロンドン・デザインミュージアム)】

ロンドンのケンジントン。
曇り空の下、どこか洗練された住宅街の中を歩いていると、
突如として現れるガラスと白壁の建物。
そこがデザイン・ミュージアムだった。

一見シンプルな箱のようでいて、
近づいてみるとその存在感は想像以上に強い。
元々は1960年代に建てられた教育施設を改修したもので、
今では“デザイン”そのものを展示するための器となっている。

中に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、屋根の構造だ。
曲面と直線が入り混じった大きなヴォールトが、空間を優しく包み込む。
そしてその下を、立体的な螺旋状のスロープと回廊がゆるやかに巡っている。

展示を見る、というよりも、
建物の中を“歩くことで構成される体験”だった。

階を上がるごとに見える風景が変わっていく。
ただ展示を追っているだけではなく、
建物の構造そのものが“見せ方”を決めている。

スロープや階段、回廊を歩いていくと、
視線が少しずつ変化する。
どこから見ても、屋根が常に頭上を包み込み、
建築と展示のあいだに、距離ではなく“連続性”があることに気づく。

このミュージアムのすごさは、展示の内容以上に、
その「動きの中にある構成力」にあると思った。

展示スペースはどこも白く統一されている。
余計なものは削ぎ落とされているけれど、
構造や光の導きによって、場所ごとにちゃんと違いがある。
光の入り方、素材の肌理、動線のカーブ。
すべてが「どう見せるか」によって決められている。

最初は、「デザインを展示するミュージアム」として見に来た。
でも帰る頃には、「建築そのものがデザインされているミュージアム」だったと実感していた。

どこかで見たことのあるデザインやプロダクトも、
この空間の中で見ると、また違って見える。
空間と物の関係が再構築されているような感覚。

建築が展示に従属するのではなく、
建築が展示を“立ち上げている”空間だった。

静かで、やわらかく、どこかストイック。
ロンドンの喧騒とは少し距離を置いたこの建物の中で、
時間の流れまで、すこしだけ丁寧になったような気がした。

🔍 Design Museum(ロンドン・デザイン・ミュージアム)

  • 所在地:224–238 Kensington High St, London W8 6AG, United Kingdom
  • 再設計(改修):OMA(Rem Koolhaas)→ John Pawson による内装デザイン(2016年移転)
  • 旧施設:コモンウェルス・インスティテュート(1960年代建築)

🚉 アクセス方法

  • 最寄駅:Kensington (Olympia) 駅、または High Street Kensington 駅(徒歩約10分)
  • ロンドン中心部から地下鉄で15〜20分程度

⏰ 開館時間・入場料(2025年時点)

  • 毎日10:00〜18:00(最終入館17:00)
  • 常設展は無料(一部企画展は有料)

💡 見学のポイント

  • 見上げると分かる独特な屋根構造と、内部空間に連続する回廊の構成が特徴
  • 展示と構造体が干渉し合わないよう慎重に設計されており、「建築を歩く」感覚が強い
  • デザインの対象だけでなく、「展示する空間」自体が一つのデザイン作品になっている